モロッコの砂漠を舞台にして実際の誘拐事件を映画化した冒険アクションです
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジョン・ミリアス監督の『風とライオン』です。1904年にモロッコ・タンジールで起きたアメリカ人誘拐事件に基づいて、ジョン・ミリアスが脚本を書いて自ら監督した作品で、ベルベル人のスルタン(首長)と第26代合衆国大統領セオドア・ルーズヴェルトの激突が描かれます。スルタンであるライズリにはアンソニー・クインやオマー・シャリフが候補に上がりましたが、最終的にはショーン・コネリーが演じることになりました。
【ご覧になる前に】ジョン・ミリアスにとっては二作目の監督作品となります
1904年10月タンジールの砂漠を馬で駆ける一群は遊牧民たちを蹴散らしながら、町中に進出するとペルディカリス家を強襲します。ベランダでワインを楽しんでいたスミス卿がピストルで応戦しますが弾切れとなり、イーデンとふたりの子どもがさらわれてしまいます。一群を率いるのはベルベル人リフ族のスルタン(首長)であるライズリで、黒い装束に身を包んだライズリは母子三人を人質とすることで、フランスやドイツなど欧米諸国が祖国を侵略する現状に反旗を翻そうとしたのでした。アメリカ人が誘拐されたことでモロッコ進撃の世論が高まると、ボクシングや射撃の訓練に余念のないセオドア・ルーズヴェルト大統領は大西洋艦隊に出撃を命じるのですが…。
南カリフォルニア大学の映画学科出身のジョン・ミリアスは、『大いなる勇者』『ロイ・ビーン』『ダーティハリー2』など1970年代前半を代表するアクション映画の脚本家として活躍していました。そのジョン・ミリアスの初監督作品が1930年代に実在したギャングを描いた『デリンジャー』で、本作はそれに続くジョン・ミリアスの二作目の監督作品となります。
『デリンジャー』と同じように、本作も実際に起きた「ペルディカリス誘拐事件」を題材にしています。イオン・ハンフォード・ペルディカリスは、モロッコで奴隷制度廃止運動に関わる人権主義者でしたが、ライズリに誘拐されて山奥に幽閉されてしまいました。この事件に対してアメリカ大統領セオドア・ルーズヴェルトがどのように対応するかが世間の耳目を集めることとなり、結果的にペルディカリスを数週間で解放させることに成功したんだそうです。テディの愛称で親しまれた第26代大統領セオドア・ルーズヴェルトは二期8年の任期を務めあげ、大統領職をウィリアム・タフトに引き継ぎました。
キャメラマンのビリー・ウィリアムズは1929年生まれのイギリス人で、本作で撮影監督をつとめる前は『エクソシスト』に関わっていたようです。本作で雄大なモロッコの砂漠の風景(実際はスペインで撮影されたそうですが)をキャメラに収めたウィリアムズは、1981年の『黄昏』、1982年の『ガンジー』などの作品でキャメラマンを任されるようになりました。
音楽のジェリー・ゴールドスミスは「電撃フリントシリーズ」などで1960年代から活躍した作曲家ですが、才能が華開いたのは、1970年代でしょう。1973年の『パピヨン』で印象に残る主題曲を書き、本作や『カサンドラ・クロス』『オーメン』『ブラジルから来た少年』『カプリコン1』『エイリアン』そして『スター・トレック』と70年代アメリカ映画においてはジョン・ウィリアムズと人気を二分した名作曲家でした。本作では中東を意識したエキゾチックなメロディに注目です。
【ご覧になった後で】ショーン・コネリーの魅力が最大限に発揮されています
いかがでしたか?本作の主人公はベルベル人のライズリで、ハリウッド映画の中でアラブ人を主人公にした映画は本作以外に見当たらないくらいに珍しい設定なのですが、そのライズリを魅力的で勇猛な人物として描かないことには映画として成立しません。その点でショーン・コネリーを主演に抜擢したころが本作の勝因になっていて、007シリーズのジェームズ・ボンド役のイメージからの脱却を図っていたショーン・コネリーの熱演が光っていました。アラブ訛りの英語を話させようとしても全くそれを受け付けなかったという逸話も残っていて、そんなセリフの発音で小細工するまでもなく、立派にモロッコのムスタンになり切っていたと思います。
実際に誘拐されたペルディカリスもライズリとの間に信頼関係が構築され、いわゆる「ストックホルム症候群」になったそうですが、ショーン・コネリーと何日か一緒にいればそれも納得できるような雰囲気がありました。実在のペルディカリスは男性で、本作はそれを女性に置き換えてキャンディス・バーゲンが演じたわけですが、男性と女性となると信頼関係はそれ以上に発展する可能性もあり、しかし本作はそのような気配を一切描こうとしていません。ならば女性にする必要もなかったのではないかと思われるのですが、終盤でキャンディス・バーゲンが銃をぶっ放す場面を出すことで、そっちに流れるような女性でないことを強調していたのかもしれません。
そしてキャメラは砂漠のさまざまな表情を捉えていて見どころ満載でしたが、やっぱり本当に現地で長期間撮影した『アラビアのロレンス』に比べると小粒な感じが否めず、また暑さの表現などが不足しているのも残念でした。ライズリの一群が馬で出征するのを室内からとらえたショットは、室内の暗闇の向こうに灼熱の太陽の下を進む馬群を映し出していて、そのコントラストが見事でしたから、もう少し影をうまく使ってほしかったところです。
ジョン・ミリアスは本作の後は『ビッグ・ウェンズデー』『コナン・ザ・グレート』『若き勇者たち』などの監督作品を残しているものの、どれもそれなりの出来に終わっているような感じです。逆に脚本家として『地獄の黙示録』を書いたのはジョン・ミリアスですから、本作でも演出面では特にこれといった特徴はなく、ショーン・コネリーをどれだけ前面に出すかということに終始していましたので、どちらかというとシナリオライターが本分の人だったのかもしれません。
あと俳優としてのジョン・ヒューストンは登場場面が少ないのに存在感があって印象的でしたね。ジョン・ヒューストンは本作と同じ1975年にショーン・コネリー主演で『王になろうとした男』を監督していて、公開は本作より半年後ですので、ひょっとしたら本作出演時にショーン・コネリーに目をつけたのかもしれません。またジョン・ヒューストンは俳優として1974年にロマン・ポランスキー監督の『チャイナタウン』で悪玉を演じて好評を得ていました。本作出演時は六十九歳だったようですけど、年齢以上に貫禄があり、ブライアン・キース演じるルーズヴェルト大統領の後見役にぴったりだったと思います。(V122424)
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