華麗なる週末(1969年)

フォークナーの小説を映画化したマックイーン主演にしてはのどかな作品です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、マーク・ライデン監督の『華麗なる週末』です。原作はウィリアム・フォークナーの「自動車泥棒」という小説で、二十世紀初頭のアメリカ南部で少年が4日間の旅を通して成長するという物語です。スティーヴ・マックイーン主演にしてはのどかな作品なのですが、日本語タイトルは前年に公開された『華麗なる賭け』にあやかってつけられたのでしょう。全然華麗でも何でもなくどちらかといえばこんな朴訥とした作品によくマックイーンが出演したなと思わせるほどテンポの緩い地味な映画になっています。

【ご覧になる前に】車でミシシッピからメンフィスへ旅する三人組のお話です

ミシシッピ州ジェファースンの駅に蒸気機関車に乗って運ばれて来たのはウィントンフライヤー号と名付けられた黄色い自動車。購入したのはルーファス少年の祖父ボスで、車の管理を任された使用人ブーンはボスたちがセントルイスに親類の葬儀に出かけると車にルーファスを乗せてメンフィスに向います。ボスの遠縁だという黒人ネッドが乗り合わせた車は途中でぬかるみにはまったりしながらメンフィスに到着しますが、ブーンが向かった先は娼館で、ルーファス少年はそこでコニーという美人でやさしい娼婦に出会ったのでした…。

ウィリアム・フォークナーの原作「The Reivers」はそのまま映画のタイトルになっていまして、賊徒とか泥棒という意味なんだそうです。脚色したのはアーヴィング・ラヴェッチとハリエット・フランク・ジュニアの二人で、彼らは『11人のカウボーイ』でマーク・ライデル監督と再びタッグを組むことになります。さらには音楽のジョン・ウィリアムスも『11人のカウボーイ』を担当しますので、スタッフはおなじみのメンバーが揃っていたようです。

スティーヴ・マックイーンは前年にはノーマン・ジュイソンの『華麗なる賭け』とピーター・イェーツの『ブリット』に立て続けに主演していましたので、その翌年に出演したのがのんびりとしたこの『華麗なる週末』だったというのが、なんとも違和感が残るところです。日本の配給会社もマックイーン主演作ということで興行的に期待をかけていたのだと思いますが、本作の内容を見て愕然としたのではないでしょうか。当時の宣伝用ポスターを見ると「男の欲望を賭けてクラシック・カーが南部を突っ走る!」という惹句が書かれていて、ポスター中央には実にシリアスな表情をしたマックイーンの顔のアップが大きく掲げられています。宣伝上はマックイーンらしいアクション映画的な打ち出しをして、なんとか観客を集めようという魂胆だったのでしょう。もちろん興行成績ランキングには全く入っていませんので、宣伝も効果がなかったことになりますが。

共演しているルパート・クロスは本作の演技でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされました。シドニー・ポワチエが1963年に『野のユリ』でアカデミー賞主演男優賞を獲得したのが黒人俳優としての初の快挙でしたが、助演男優賞での黒人のノミネートはルパート・クロスがはじめてだったそうです。ただしオスカーはギグ・ヤングに持っていかれてしまい獲得できませんでした。ルパート・クロスはジャック・ニコルソンが主演した『さらば冬のかもめ』の出演オファーを受けていましたが、癌を患っているのが見つかって出演を辞退、1973年に四十五歳という若さで亡くなっています。

【ご覧になった後で】タルい前半に比較して馬のレースは盛り上がりました

いかがでしたか?娼館でルーファス少年がケガをするあたりまではなんだかタルい展開で見ていても面白くなかったのですが、ネッドが車を売り払ってしまったあたりから徐々にエンジンがかかってきて、終盤のホースレースでの一騎打ちではなかなかの盛り上がりを見せていました。そしてルーファス少年がジェファースンの町に戻って来て祖父に抱擁される場面ではなんだかこの少年の精神的成長にエールを送りたい気分にさせられます。そういう意味ではグッドムービーという印象で終わることができていました。

しかしながらどうしても今ひとつ感は拭えません。というのも脚本の細部の詰めが甘くて、ストーリーもキャラクターも雑になってしまっているのです。例えばメンフィスの保安官。差別主義者で色情狂の保安官はコリーを慰みものにしたあとは登場しません。それでは保安官という登場人物が生きないわけですし、コリーを保安官に差し出してしまったブーンや娼婦仲間たちの立場がなくなってしまいます。できれば保安官はコリーの身体ではなく娼婦たちから金を巻き上げるとかにして、その金をホースレースの賭けで全部取られてしまうとか、そんな展開にもっていきたかったところでした。

またマックイーン演じるブーンが冒頭で100ドルの罰金を払ったうえにまだいくらでも現金を持っているのもヘンですよね。そんな裕福な使用人がいるんでしょうか。一方のネッドも登場した途端に新品の自動車をメチャクチャに運転したりして単なる不愉快な人物にしか感じられません。どこか憎めない奴という感じが全くしないので、マックイーンとのコンビネーションも生きていません。さらにはルーファス少年が馬で疾走するショットは明らかにスタントマンだとわかってしまうくらいで、ちょっと興覚めしてしまいます。ディテールをしっかりと作りこんでほしかったですね。

足りないところばかりをあげつらってしまったのですが、やり直しレースの描き方が大人になったルーファスのナレーションで回想風に語られているところは一気に映画のムードをノスタルジーに振れさせて実にうまい処理でした。一回目のレースをスピード感で演出したのに対して二回目はポエティックな印象に変えたので、レースの勝敗よりもルーファス少年の成長が強調されるような効果があったと思います。そういう意味では本作はルーファス少年のジュブナイルストーリーだったといっていいでしょう。

舞台は二十世紀初めのミシシッピ州とテネシー州メンフィスでして、ミシシッピ州は1960年代のミシシッピ・バーニング事件でも有名な黒人迫害地域です。クー・クラックス・クランはミズーリ州が発祥の地ですし、ミシシッピの事件の首謀者でもありましたから、そんな地域でネッドのような黒人が町の名士の遠縁を名乗ることが許されたんでしょうか。差別主義者として出てくるのは保安官だけで、娼婦たちも特にネッドのことを毛嫌いしたりしませんが、1957年に起きたリトルロック高校事件で黒人生徒と一緒に授業を受けるのを拒否したのが主に地元の女生徒たちだったことを考えるとどうにも不自然な感じがします。まあ本作が製作された1969年は、キング牧師が暗殺された翌年でしたので、映画の中では白人と黒人の交流を多少現実離れした表現で描くことが求められていたのかもしれませんね。(V102222)

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