スティング(1973年)

ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードがコンビを組んだ詐欺映画

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジョージ・ロイ・ヒル監督の『スティング』です。主演のポール・ニューマンとロバート・レッドフォードは『明日に向って撃て!』で共演していて、ジョージ・ロイ・ヒル監督が再び二人の共演を実現させました。実質的にはレッドフォードのほうが主役なのですが、クレジットではポール・ニューマンが先に出てきます。しかし『スティング』が大ヒットを飛ばしたため、本作の後ではレッドフォードは必ずトップビリングされる人気俳優としての地位を確立したのでした。

【ご覧になる前に】1930年代のシカゴが舞台、ノスタルジームード満点です

取り替え詐欺を得意とするフッカーは仲間と一緒にある男から1万ドルの大金をせしめることに成功します。ところがこの金はシカゴとニューヨークを牛耳る大物ギャングのロネガンに渡るべきもの。縄張りを荒らされたと知ったロネガンはすぐさまフッカーの相棒ルーサーを殺してしまいます。フッカーはルーサーの知り合いのヘンリーという男を訪ねて、シカゴへと急ぐのですが…。

『スティング』は1973年度のアカデミー賞作品賞を受賞していて、このときのアメリカはノスタルジーブームに沸いていた時期でしたので、1930年代を舞台にした本作はまさにトレンドをとらえた作品でした。1973年1月にアメリカと北ベトナムの間でパリ和平協定が調印されて、アメリカ軍はベトナムから全面撤退することになりました。それまでアメリカ映画界は、厭戦ムードをベースにした反体制的なニューシネマが台頭していて、その代表作が『イージーライダー』や『真夜中のカーボーイ』などでした。そこにやっとベトナム戦争からの撤退が決まり、若者たちが徴兵でベトナムに行かなくても済むということになったので、アメリカ国民たちは一気に安堵感というか解放感に浸されるようになったのです。

そこに登場したのが1950年代を振り返る『アメリカン・グラフィティ』や1930年代を舞台とした『スティング』。安心した気持ちに郷愁が重なり、アメリカ全体がノスタルジーブームに傾き、その頂点としてMGMミュージカル懐古集『ザッツ・エンタテインメント』が1974年に公開されます。当時のアメリカで現地取材していた映画評論家の小林信彦がTVや雑誌などすべてのメディアがノスタルジーをテーマにしていたと語っているように、ベトナム戦争のプレッシャーから解き放たれた人々はレトロなアメリカを懐かしむことで自分たちの心の傷を癒そうとしたのでした。

ジョージ・ロイ・ヒルは『明日に向って撃て!』の監督でしたから、この『スティング』とともにニューシネマからノスタルジーブームへうまく乗り換えた人のように見えます。けれども本作の前年にはカート・ヴォネガット・ジュニアの小説「スローターハウス5」を映画化するなど、ちょっと不思議なキャリアをもっています。1982年にはジョン・アーヴィングの小説「ガープの世界」も映画化しているので、アメリカのポストモダン文学に傾倒した人だったのかもしれません。

本作はユニバーサル・ピクチャーズの製作作品。ユニバーサルといえば、USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)のほうが今では有名ですが、もとはハリウッドの映画製作スタジオのひとつで、MGMや20世紀フォックスがビッグファイブと呼ばれたのに対して、コロムビア、ユナイテッド・アーティスツとともにリトルスリーにランクされていた映画会社でした。ユニバーサルがアカデミー賞作品賞をとったのは1940年の『西部戦線異状なし』以来のことだったそうですが、『スティング』のあとは、スティーヴン・スピルバーグ監督による『ジョーズ』『E.T.』『ジュラシック・パーク』などの大ヒット作を連発して大成功を収めることになるのです。

【ご覧になった後で】観客さえもダマす見事な脚本、まさに詐欺師ですな

いかがでしたか?もう最後の主演二人共倒れの場面にはびっくりさせられますし、さらに二人がむっくりと起き上がるところで再度のびっくりで、本当にうまく観客をダマしたもんですな。これはひとえにシナリオの出来の良さに尽きるわけでして、脚本を書いたのはデヴィッド・S・ウォード。メジャーデビュー作であるこの映画でアカデミー脚本賞を受賞していますが、その後はあまり活躍できずに、やや退屈な野球映画『メジャーリーグ』の監督などをした程度で終わってしまいました。子どもの頃に本作をロードショー公開時に見たときは心底大人は信用できないというくらいの衝撃を受けましたけれども、久しぶりに再見してみると、FBIの倉庫基地の場面が出てきたときには「これもフェイクなのかな」と感じたので、長い間世間に揉まれるといつのまにか「信用できない大人」の側になってしまったんだなと感慨深いものがありました。

冒頭に出てくるユニバーサル・ピクチャーズのロゴがモノクロ時代の昔のものだったのが笑えましたが、1930年代のシカゴを再現した映像が非常に印象的で、アートディレクターはヘンリー・バムステッドがやっています。シカゴの高架鉄道のセットなどが見ごたえがありましたね。同じくノスタルジーものの『フロント・ページ』(1974年/ビリー・ワイルダー監督)でも巧みなセットデザインを見せてくれています。またレッドフォードやポール・ニューマンが着こなす30年代のスーツも、デザインといい生地の感じといい本当に嬉しくなるほどファッション感度に優れていました。この衣裳デザインはイーディス・ヘッドによるもの。ヘッド女史は『ローマの休日』や『麗しのサブリナ』でオードリー・ヘプバーンを見事に開花させたファッションの達人です。

ジョージ・ロイ・ヒルの演出は、絵本をめくるような章立て表現とサイレント映画時代によく出てきたアイリスアウト(画面が丸く縮まっていく場面転換手法)の多用で、ノスタルジックなムードを醸し出していました。けれども監督の技量が映えるのはその程度で、やっぱりこの映画が面白いのはシナリオと俳優の組み合わせによるところが大だと思います。スナイダー刑事を演じるチャールズ・ダーニング。ダイナーで朝食をとっているところにFBI(ニセモノ!)が来て車に乗せられる場面を思い出してください。ナイフとフォークを握っていた手をとめて、コインを置くと、指先をちょいとコップの水につけて出ていくのです。要するに飲み水で手を洗うようなクセのあるところを表現したディテールなわけですが、これはジョージ・ロイ・ヒルの演出ではなく、チャールズ・ダーニングの演技だとしか思えません。こうしたことはできる俳優がいると、監督は見ているだけでいいんですよね。まあ、なにしろポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの二人が最も脂ののった時期でしたので、放っておいても傑作間違いなしのキャスティングだったのは明らかでしょう。(V110721)

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