リオ・ロボ(1970年)

ジョン・ウェイン主演の西部劇でハワード・ホークス監督の遺作となりました

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ハワード・ホークス監督の『リオ・ロボ』です。ジョン・ウェインが保安官を演じた『リオ・ブラボー』で西部劇の傑作を送り出したハワード・ホークス監督が『エル・ドラド』に続いてジョン・ウェインと組んだのが本作です。本作のあともケーリー・グラント主演の西部劇を企画したりしたそうですが実現せず、1977年に亡くなったハワード・ホークスにとっての遺作となりました。撮影時にハワード・ホークスは七十四歳、ジョン・ウェインは六十三歳。二人の年齢が西部劇というジャンル自体が消滅しそうな時代を象徴しているともいえるでしょう。

【ご覧になる前に】南北戦争終結時を背景とした元軍人ガンマンの物語です

南北戦争末期、北軍のマクナリー大佐は列車で運搬中の金貨を南軍のコルドナ大尉一味に強奪されてしまいます。マクナリー大佐がコルドナたちを捕らえたとき戦争は終結し、マクナリーは金貨輸送計画を南軍に密告した裏切り者を見つけ出すため、コルドナに協力を依頼します。ブラックソーンに移り住んだコルドナから知らせを受け取ったマクナリーがコルドナのもとを訪れると、そこで薬売りの相棒を殺されたというシャスタと出会います。マクナリーとコルドナはシャスタの案内で隣町のリオ・ロボに乗り込むことになったのですが…。

映画の冒頭に出てくる製作会社のロゴは「シネマ・センター・フィルムズ」のもの。このCCFは1967年から1973年までCBSテレビネットワークが運営していた映画製作会社で、劇場公開したあとにTVで放映するための映画を作る制作ユニットでした。映画製作といってもすべて自主製作だったわけではなく、製作プロダクションやプロデューサーに出資する資本会社という立場でもあったらしく、作品ごとに資本を組み合わせる手法はのちに日本でも導入されて、フジテレビが映画製作に乗り出したのと同じやり方でした。

監督のハワード・ホークスは『リオ・ブラボー』に代表される西部劇が有名で、他には『紳士は金髪がお好き』や『ヨーク軍曹』、『三つ数えろ』などさまざまなジャンルの娯楽作品を作った人です。ジョン・ウェイン主演の西部劇は『赤い河』に始まって本作で四度目のコンビ作となります。作品としては映像テクニックにおいて何か特徴があるというわけではなく、どちらかといえばプロデューサーとして映画全体を企画・製作する仕切り屋として辣腕をふるった監督といっていいでしょう。1962年の『ハタリ!』はアフリカを舞台にした狩猟映画として他にはないタイプの作品でしたし、1965年の『レッドライン7000』は当時としては珍しいカーレースを題材にしていて、常に新しいジャンルを開拓していたプロデューサーでもありました。

アメリカ合衆国で南北戦争が終結したのは1865年。奴隷制存続を主張する南部11州が合衆国からアメリカ連合国として分離しようとしたことから合衆国(=北軍)と連合国(=南軍)による内戦が起こったのでした。アメリカでは南北戦争のことを「The Civil War」と呼ぶそうで、工業化を進める北軍と農業主体で奴隷制度を必要不可欠のものと考える南軍の争いは結果的には四年以上続きました。世界史上初の近代戦ともいわれていて、武器を手工業製品に頼っていた南軍に対して、北軍の銃器は工場生産によるものが主体で、銃器の差が北軍を勝利に導いたともいわれています。

西部劇スターとして人気俳優だったジョン・ウェインも1960年代には肺がんを患い片肺を失いながら闘病を続けていました。ベトナム戦争ではタカ派の急先鋒の立場をとり、その愛国主義が非難されることも多くなっていましたが、1969年に主演したヘンリー・ハサウェイ監督の『勇気ある追跡』でアカデミー賞主演男優賞を受賞。ちょうど本作の撮影時の受賞で、授賞式から撮影現場に帰ってきたジョン・ウェインのことを本作のスタッフやキャストが全員片目に眼帯をして出迎えたというエピソードが残っています。『勇気ある追跡』の主人公が隻眼のガンマンだったからで、馬まで片目を隠していたそうですよ。

【ご覧になった後で】ジョン・ウェインも歳だなと思わずにはいられません

うーん、1950年代まではスラリとして片足を引きずるようにして歩くジョン・ウェインはまだカッコよかったのですが、本作ではさすがに歳を感じさせていて、腹は出ているし動きは鈍いし目もショボショボしていて、どうにもこうにも主人公を演じるには歳を取り過ぎていた感は拭えませんでした。そんなジョン・ウェインの老け具合に合わせて、ジェニファー・オニールといっしょに野営するところでは、ジョン・ウェインは早々に寝てしまい、キスシーンはメキシコ人俳優のホルヘ・リベロにお任せという設定になっていました。朝起きてみるとジェニファー・オニールがジョン・ウェインの隣に寝ていて「あなたは安心だから」とまで言われてしまいます。まあ、この「confortable」が全編にわたって繰り返されるのが脚本の妙味でもあったわけですけど。

加えて、これはシナリオの弱点ですが、ジョン・ウェイン演じる大佐がなぜここまでもめ事に深入りするのかが描けていないんですよね。北軍を売った密告者を探し出したいといって裏切り者のケッチャムに行き着くのですが、結果的にはケッチャムが独占していたリオ・ロボの土地の権利書を書き直させて町の人たちを救うという展開に変化していきます。それではそもそもの動機がなんだったのかというふうに思えてしまいますし、なぜ通りすがりのリオ・ロボの町民たちのために命をかけてそこまでやってあげなくてはならないのかが今ひとつ伝わりませんでした。

そんなですからガンアクションも見るべきものがなく、南軍出身のクリストファー・ミッチャムが茎をシュノーケル代わりにして川の中を潜水移動するという忍者まがいの芸当を見せるのが、なんともシラけてしまうのです。このクリストファー・ミッチャムは、『エル・ドラド』のもう一人の主役を演じたロバート・ミッチャムの実の息子さんなんだそうで、撮影現場に遊びに来たロバート・ミッチャムにハワード・ホークスが来てくれたついでに出演してくれと頼んだところあっさりと断られてしまったんだとか。でもクリストファーくんは親父さんとは全く違って、キリっとした表情が印象的な俳優でした。

またジェニファー・オニールも現場ではいつも髪の毛ばかりいじっていて評判が悪かったらしく、ラストで敵を撃ち殺す役回りだったのを変更させられたそうです。映画では顔を傷つけられたアメリータというメキシコ女性がピストルを撃ち、ジョン・ウェインに抱えられながら去っていくというのがラストショットになっていました。このアメリータを演じたシェリー・ランシングという女優がすごい人で、女優としては本作とあと一本くらいしか出ていないのですが、その後映画を作る側の仕事に就いて、MGMとコロンビア・ピクチャーズを経て、1980年には20世紀フォックス社の社長になっちゃったビジネスウーマンなのです。さらには1992年にパラマウント・ピクチャーズの会長になって最高経営責任者を2005年まで続けました。裸の胸を両腕で隠しながら登場するあんな端役のような女優がアメリカを代表するトップ・エグゼクティブになっていったのですから、人って本当にわからないもんですし、アメリカンドリームって実際にあるんだなと実感してしまいました。(V061522)

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