ジェットでなくても憧れてしまうほどエリザベス・テイラーが美しい
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジョージ・スティーヴンス監督の『ジャイアンツ』です。「ジャイアンツ」と言われると、すぐにプロ野球を思い出してしまいますが、原題は”Giant”で、エドナ・ファーバーの小説の映画化作品です。ジョージ・スティーヴンスにとっては、西部劇の名作『シェーン』とともに代表作のひとつ。アメリカにおけるテキサスの歴史や風土を体感することができる大作で、3時間20分の上映時間を我慢できる方にはぜひ見ていただきたい長編映画です。
【ご覧になる前に】撮影直後に交通事故死したジェームズ・ディーンの遺作
東部の名家に生まれ育ったレズリーはテキサスの牧場主ビッグのもとに嫁ぎます。旧弊な考えをもつ義姉からのいじめにも耐えて、大牧場を女主人として切り盛りし始めるレズリー。そんな彼女をビッグが毛嫌いしている牧童のジェットが遠くから憧れの目で見つめます。事故で亡くなった義姉から譲られた土地で、ジェットが一攫千金を狙って取り組み始めたのが油田開発。やがてジェットの土地からは大量の原油が採掘され、ビッグの経営する牧場を横目に、油田事業を拡大したジェットはテキサスを代表する大富豪にのしあがっていきます…。
ロック・ハドソン、エリザベス・テイラーの大スターに、『エデンの東』で一躍スターダムの上り詰めたジェームズ・ディーンが加わっての演技合戦。ジェットというキャラクターに恵まれたこともあり、ジェームズ・ディーンの圧勝なのですが、残念ながらジェームズ・ディーンはこの映画の撮影直後に交通事故死してしまいました。『ジャイアンツ』が公開されたのは彼の死の一年後。ジェームズ・ディーンの演技は高く評価され、故人であったにもかかわらずアカデミー主演男優賞にノミネートされました。
かたやエリザベス・テイラーの美しさは目を見張るばかりで、彼女は映画の撮影時にはまだ二十五歳でした。それなのに結婚前の若さ溢れる美少女から、大牧場の威厳を感じさせる堂々たる女主人まで、年代記において成長する女性を実に見事に演じ切っています。特に年齢を重ねたあとの深みのある美貌には思わずうっとりとさせられてしまいます。
【ご覧になった後で】意外にも映画の後半に目立ったリベラルな描写
テキサスはアメリカでも保守的な地域ですし、ケネディ大統領が暗殺された土地でもあり、この映画もテキサス賛歌あるいは西部の偉大なる年代記なのではないかと勘違いされた方も多いのではないでしょうか。ところがさにあらず。レズリーは牧場の中で働くメキシコ系移民たちに温かい目を注ぎますし、映画の後半では、レズリーに影響されて、差別主義者だったビッグさえも移民を排斥しようとするピザハウスの店主に立腹して殴り合いのケンカまでします。牧場を継ぐはずだった長男は、移民たちのためのセツルメント診療に身を捧げ、移民の女性との結婚を選びます。牧場主と油田王のサクセスストーリーの対比だけでなく、テキサスという土地が近代化の波の中で、いつまでも白人至上主義でいられなくなる現実を冷静に切り取ったリベラルな映画でもあるのでした。
ちなみにアメリカでは公民権法が制定される1964年までは、有色人種に一般公共施設を利用させないジム・クロウ法が法律として認められていました。なので1956年に公開された『ジャイアンツ』で、有色人種に平等な目を向けた描写をするのは大変な勇気が必要だったと思われます。本作でジョージ・スティーヴンスはアカデミー賞監督賞を受賞していますが、いわゆる赤狩り、レッドパージが終焉を迎えたのは、『ジャイアンツ』製作直前の1954年でした。監督賞授与は、ハリウッドでもレッドパージに協力する動きがあったことへの反省、あるいは罪滅ぼしの意味があったのかもしれません。
前半で印象的なのは、ついさっきまでビッグの子どもたちと遊んでいた七面鳥が、丸焼きになって食卓に出される場面。子どもの感受性を見事に表現していて、昔のテレビ放映時に見た記憶が真っ先に蘇ってきました。また、ジェームズ・ディーン演ずるジェットが、自分の土地を持てた喜びで、土地の端から端を大股で歩きながら歩数計算するシルエット。ジェットの孤独感と、成功への野心が端的に映像として表現されていました。
そして勇壮で抒情的なテーマソングを作曲したのは、ディミトリー・ティオムキン。戦前からハリウッドで活躍した名作曲家ですが、『真昼の決闘』や『OK牧場の決斗』などの西部劇音楽が印象的ですし、『ナバロンの要塞』や『北京の55日』などの戦争ものでも忘れがたいメロディーを残しています。ミッチ・ミラー楽団が演奏したレコードを繰り返し聴いたのが思い出されます。(V051921)
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