不道徳教育講座(昭和34年)

三島由紀夫原作の風刺喜劇。けれどあまり笑えないかも…

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、西河克己監督の日活映画『不道徳教育講座』です。原作は三島由紀夫。原作とはいっても小説ではなく、週刊明星に連載された評論集。それをもとに、とある地方都市が文政省による「文教都市」認定審査に合格しようとするドタバタ喜劇にした映画です。でも思わず笑ってしまうなんて場面はほとんどなく、たまに苦笑が漏れ出る程度の喜劇と言ったところでしょうか。

【ご覧になる前に】クレジットされていませんが三島由紀夫が出ます

刑務所から出所した藤村は、列車の中で出会った自分そっくりの男と入れ替わり、地方で気楽に暮らそうとしますが、その男は役所の高官で町あげての歓待の準備が進んでいたところ。しかし藤村は、お得意の要領の良さで町の堅物の役人たちを煙に巻き、役人たちの悪事が暴かれることに…。

出演者にはクレジットされていませんが、開巻すぐに出てくるのは三島由紀夫本人です。昭和34年公開の映画なので、たぶん『鏡子の家』を執筆中のころではないでしょうか。当時の三島由紀夫はマスメディアの寵児で、テレビやラジオ、新聞・雑誌にひっぱりだこの頃。そんな忙しい中で映画に出演するのですから、基本的には目立ちたがり屋だったんでしょうね。映画の最後にも再び出てきますので、途中で見るのをやめるとその点では損をしますのでご注意のほど。

そして主演はなんと大坂志郎。松竹映画『君の名は』ではヒロインに片思いする熊本男を演じ、本作の前年には裕次郎主演の『紅の翼』で八丈島の医者をやっていた、あの大坂志郎。テレビドラマでもほぼ脇役しかやらないあの大坂志郎が主演なのです。でも大坂志郎では物足りないかと言えば、そんなことはなく、やっぱり上手い!他にも主演作があるのかもしれませんが、良い役者はどんな役をやらせても上手に演じるものなんだなと思える映画です。ほかは、あまり期待しないほうが良いかもしれません。

【ご覧になった後で】柳原良平のタイトルデザインが洒脱な味わい

「道徳講座」の前に「不」を運んでくるアニメーション。タイトルデザインはイラストレーターの柳原良平。サントリーのトリスおじさんのデザインをした人です。サントリーを退社してフリーになったのは昭和34年とのことだそうなので、本作のタイトルデザインはサントリー社員としての副業だったんでしょうか。

大坂志郎のほかでは、やっぱり長門裕之が印象的です。最初にサングラス姿で登場したときは津川雅彦かと見違えてしまうほど、この兄弟はよく似ていますね。あと見ているほうが恥ずかしくなるのは三崎千恵子。「男はつらいよ」のおばちゃんの印象しかない三崎千恵子ですが、本作ではなんだか妙に色気づいた役で、「悪徳のよろめき」なんて本を読んでいる。もちろん三島の昭和32年「群像」に連載された「美徳のよろめき」のパロディです。そして、岡田真澄がチャラい役で出てくるのも、実生活のパロディのようで、皮肉が効いています。

警察署長宅の次男が「完全犯罪」だといって銃を発砲する仕掛けをしますが、あんなに大仰な細工をいつ完全に撤去するんでしょうか。というバカな疑問は置いておいて、最後に再登場する三島由紀夫の「誰だって長生きしたい」というセリフは、今になってみるとこの映画の一番の皮肉に聞こえます。この映画が封切られた十一年後に起きる事件を、この時点で想像した人はだれひとりとしていなかったでしょう。(A091521)

コメント

スポンサーリンク
タイトルとURLをコピーしました