エクソシスト(1973年)

この映画をきっかけにして日本でも一大オカルトブームが巻き起こりました

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ウィリアム・フリードキン監督の『エクソシスト』です。エクソシストとは悪魔祓い師のこと。少女に取り憑いた悪魔とエクソシストの対決がクライマックスとなります。昭和49年に本作が日本で公開されるとオカルトブームが世間を席巻して、ユリ・ゲラーの超能力と相俟って超常現象に注目が集まりました。ちなみに『エクソシスト』が公開された7月13日は「オカルト記念日」に制定されています。

【ご覧になる前に】裕福な女優一家と貧しい神父母子の話がひとつになります

イラク北部で遺跡の発掘調査に従事するメリン神父が悪霊バズズの頭像を掘り出しているとき、アメリカのジョージタウンでは女優のクリスが映画の撮影にのぞんでいました。クリスは娘のリーガンとともにロサンゼルスの家を改築する間、この街に仮住まいをしていたのでした。近所にあるイエズス会の教会につとめるカラス神父にはニューヨークの貧民街に暮らす病身の母がいますが、たまにしか見舞いに行かれないことを気に病んでいます。一方、クリスに愛されながら暮らすリーガンの周りでは奇怪な出来事が起こり始めていました…。

原作はウィリアム・ピーター・ブラッティの小説で、ブラッティはイエズス会の私立学校で学んだ後にジョージタウン大学に進学。そこでメリーランド悪魔憑き事件を知ります。1949年メリーランド州に住むローランド・ドウという13歳の少年に異変が起こった事件で、ドウの人格が豹変し、体には「助けて」という文字が浮かび上がり、部屋の家具が勝手に動くなどの怪現象が相次ぎました。ドウは悪魔に憑かれたのだとして悪魔祓いの祈禱が行われました。悪魔と神父は二ヶ月以上闘いを続け、最後には「悪魔よ去れ」の言葉によって雷鳴とともに悪魔は消えたのだそうです。ブラッティはハリウッドで脚本家としてデビューし、ブレイク・エドワーズ監督の『暗闇でドッキリ』の脚本に参加するなどコメディ分野で活動していました。1971年にメリーランド州の事件を題材としてこの「エクソシスト」を小説として発表すると大ベストセラーとなり、自らプロデューサーとなり、シナリオも書いて映画化することになったのでした。

監督に起用されたのはウィリアム・フリードキン。1971年の『フレンチ・コネクション』でアカデミー賞監督賞を受賞し、三十六歳で一躍ハリウッドのトップ監督に躍り出ました。小説「エクソシスト」の映画化にあたっては多くの監督が興味を示したそうで、ジョン・ブアマンやスタンリー・キューブリックの名前も挙がっていたらしいのですが、最終的には原作者のブラッティが監督に指名したのはフリードキンでした。しかし撮影現場でのウィリアム・フリードキンの演出はかなり過激なものだったらしく、迫真の演技を引き出すために演技直前の俳優をぶったり脅したりしたので、出演俳優からはクレームも出たそうです。

悪魔祓い師を演じるマックス・フォン・シドーは本作主演時には四十四歳でしたが、メリン神父役はもっと老けている必要があったため特殊メイクでかなりの高齢に見せています。母親役クリスにはオードリー・ヘプバーンの名も挙がっていたそうで、ヘプバーンは1967年の『暗くなるまで待って』以来映画活動を休止していましたので、もし出演していたら大きな話題になっていたでしょう。しかしヘプバーンが当時住んでいたローマでの撮影を条件に出したため、結果的にはエレン・バーンスタインが演じることになりました。また映画のキーマンでもあるカラス神父にはジャック・ニコルソンやアル・パシーノが候補になったものの、フリードキン監督は色のついていない無名の俳優を要望しました。その結果ブロードウェイで活躍していた舞台俳優ジェイソン・ミラーが神父役を獲得し、アカデミー賞助演男優賞にノミネートされるほどの好評を得ました。ジェイソン・ミラー自身が神と悪魔の存在を信じる立場だったそうですが、本作出演中に息子が事故に遭遇、その後離婚を繰り返し、2001年に六十二歳で亡くなっています。カラス神父を演じたことによってミラーは不幸な人生を歩むことになったしまったと噂されたそうです。

【ご覧になった後で】これはやっぱりオカルト映画のナンバーワンでしょうね

いかがでしたか?開巻のイラクでの遺跡発掘シーンの不気味な手触りから始まって、クリスの家で起こる様々な予兆とカラス神父の不幸な暮らしぶりが非常にサスペンスフルに描かれていて、じわじわと盛り上げていく演出が見事でした。リーガンの異変が表出化した以降は、無駄に終わる医療検査の残酷さを見せておきながら、観客をも自然と悪魔祓い師にすがるしかない気持ちにさせていきます。これは原作の語りのうまさによるものかもしれませんが、やっぱりシナリオがよく書けているおかげでしょうね。そしてこれらの恐怖を誘い出すのが音。掘削音や街の騒音が強調されたイラクのシーンから始まって、天井に響く原因不明の音やレントゲン装置(現在のCTスキャンと違ってこの当時はかなり原始的ですな)の撮影音など、音による不安感の醸成がかなりの恐怖効果をあげていました。さらには悪魔に憑かれたリーガンの声。二階から聞こえてくるゼーゼーという息が不気味に響き、さらにはいろいろな人の声音を使った悪魔ボイスが心底おぞましいものでした。音響を担当したクリス・ニューマンは本作でアカデミー賞録音賞を受賞しており、他には『ゴッドファーザー』や『アマデウス』でも音響デザインを担った人です。

悪魔の声をアテレコしたのはマーセデス・マッケンブリッジ。普通このような声だけの出演の場合はそんなに大きくクローズアップされないのですが、本作ではクレジットに堂々とその名前が出てきます。この人は『オール・ザ・キングスメン』でアカデミー賞助演女優賞を獲得していまして、それ以上に有名なのはエリザベス・テイラーとジェームズ・ディーンが共演した『ジャイアンツ』でロッド・ハドソンのお姉さん役ではないでしょうか。いかにもテキサス育ちの鉄火肌姉御というキャラクターで、そういえば声も結構ダミ声だったと記憶しています。

メリン神父とカラス神父が悪魔と闘うクライマックスは特段目立った特殊効果を使っているわけでもなく、基本はリーガンの特殊メイクの変化と三人の俳優による演技とショットのカッティングで見せていきます。ここのショットつなぎが見どころでして、ここまでは手持ちの移動ショットや人物を追うズーミングを多用しながら不安定な映像で押してきたのとは打って変わって、切れの良い短めのショットを次々に応酬するようにつないでいきます。聖書の独唱と応唱による重厚な演技をスピーディに見せて、ついには悪霊バズズをシルエットで登場させるところまでの盛り上げは本当に見事でした。

余談になりますが、昭和49年に地方都市の映画館で本作を見た中学生のときのことです。すんごい怖い映画だということで中学生ながらかなりの緊張感をもって身構えながらスクリーンに向ったのですが、映画が始まるとまもなく隣に座っていた男女のカップルがなにやらごそごそとするではありませんか。横目でチラチラのぞいていると、そのカップルはかなり濃厚な接吻と愛撫を繰り返していて、中学生としては映画よりも生身の男女の抱擁のほうに目が引き付けられてしまいました。なぜよりによってそのカップルが『エクソシスト』を選んだのかは謎ですが、そんなわけで鳴り物入りのロードショーを見に行った中学生は映画を脇見するだけで、ほぼカップルの痴態に夢中になり、結果的に何ひとつ怖くも恐ろしくもなかったという感想で帰ってきたのでした。そして今になって本作を見ると、歴代のオカルト映画の中では間違いなくナンバーワンの傑作であると再認識した次第であります。イヤー、映画って本当にいいもんですね。(A010622)

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