007カジノ・ロワイヤル(1967年)

「ジェームズ・ボンド」がたくさん出てくる007シリーズ番外編コメディです

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジョン・ヒューストンなど5人が共同監督した『007カジノ・ロワイヤル』です。5人の監督の名前を並べるのも大変なので、とりあえず一番高名で俳優としても出演しているジョン・ヒューストンに代表をつとめてもらいましょう。現在的にはダニエル・クレイグ主演で2006年に公開されたバージョンが一般的になっていますが、もとはショーン・コネリーではなくデヴィッド・ニーヴンがジェームズ・ボンドを演じた本作がシリーズの番外編コメディとして知られていて、特にバート・バカラックの音楽は今でもスタンダードナンバーとして世界中で愛され続けています。

【ご覧になる前に】小説では記念すべき第一作ですが映画化では迷走しました

田舎道に集まった4台の車から降り立ったのは英国MI6長官MをはじめとしてCIA、KGB、フランス情報部の幹部たち。彼らは郊外の大邸宅で隠遁生活を送っているジェームズ・ボンド卿を訪問し、各国の諜報部員たちを次々殺害している謎の組織スメルシュへの潜入を要請しますが、ボンド卿は受け入れません。仕方なくボンド卿の邸宅に爆撃命令を出したMは誤って死亡し、ボンド卿はスコットランドにいるMの未亡人のもとを訪ねます。そこにいたのはスメルシュの手先である美貌のマクタリー夫人でした…。

ジェームズ・ボンドはいうまでもなくイアン・フレミングが創造したスパイヒーローですが、原作の「カジノ・ロワイヤル」はその007シリーズの記念すべき第一作として1953年に出版されました。まだシリーズの人気が爆発する前の段階で、映画化権をわずか6000ドルで買ったグレゴリー・ラトフはまもなく亡くなってしまい、権利はハリウッドのプロデューサーのチャールズ・K・フェルドマンの手に渡ります。フェルドマンはハワード・ホークス監督での映画化やイーオン・プロダクションとの合作を模索しましたがいずれも頓挫してしまい、ショーン・コネリー本人に直接出演交渉したもののあっさりと断られてしまいました。やむなくフェルドマンはこの原作を使って007シリーズのパロディを作ることにして、オールスターキャストの超豪華パロディ大作が製作されることになりました。

ジェームズ・ボンド役にはイアン・フレミングが小説のモデルにしたというデヴィッド・ニーヴンが起用されました。デヴィッド・ニーヴンは『007ドクター・ノオ』でショーン・コネリーにボンド役を取られてしまったことをよく思っていませんでしたが、実際のショーン・コネリーの演技を見て感服し、本作でのボンドの出身地をスコットランドにした設定に賛同したそうです。また、『ドクター・ノオ』のボンドガールだったウルスラ・アンドレスが謎の美女として登場するほか、ピーター・セラーズとウディ・アレンが英米を代表する喜劇役者として主演級で出てきますし、オーソン・ウェルズやデボラ・カー、ウィリアム・ホールデンなどの大物俳優たちも顔を揃えています。

ショーン・コネリーが本作への出演を断ったのはジェームズ・ボンド役に飽き飽きしていたことが原因だった一方で、出演するならと提示した100万ドルのギャラをフェルドマンが払えそうもなかったからでした。しかし実際に撮影が始まってみるとピーター・セラーズがしばしば撮影現場を抜け出したり、イギリスの撮影スタジオに巨大なセットを組んだりと製作費がみるみるうちに膨れ上がって、こんなことならショーン・コネリーに100万ドル支払うほうがよほど効率的だったと嘆くことになったそうです。完成した映画は評論家たちからは評判が悪かったのに対して、劇場公開されると同じ年に公開された『007は二度死ぬ』には及びませんでしたが、世界興行収入ランクの年間ベストテン入りとなる大ヒットを記録しました。

【ご覧になった後で】バラバラのものをつなげて作った巨大パロディでした

いかがでしたか?かつてTV放映されたときに見た記憶があって、そのときも全くつながりのないお話だなと思いながら見たような気がしたのですが、はたしてこの内容ならTV放映用にどの場面をいくらカットしても誰も気がつかないくらいに一貫性も全体感もない映画でしたね。バラバラのものを寄せ集めてつなぎあわせて作ったようなもので、5人も監督がいればバラバラにもなるでしょうし、そもそも最初からこの映画のコンセプトは違った監督に違ったシークエンスを撮らせてそれを単純につないでしまおうというところにあったのではないかと勘繰りたくなります。

実際には5人の監督の役割分担は次のようになっていたそうです。ジョン・ヒューストン=ジェームズ・ボンド卿の邸宅とスコットランドの場面、ケン・ヒューズ=ベルリンの場面、ジョセフ・マクグラス=カジノの場面、ヴァル・ゲスト=ウディ・アレンの出演場面。あとひとりロバート・パリッシュがいるのですが、この人がどの場面を担当したのかはわかりませんでした。こうして場面ごとの分担を見てみると、それぞれの監督の個性が出ていて場面ごとの特色がさまざまに味わえるというお得感があるような気もしてきますね。例えばケン・ヒューズが演出したベルリンの場面は美術セットがすべてドイツ表現主義をパロッたようないびつな形の入り口や階段で、極端な光と影でモノトーンを強調するように撮られていました。まあこの映画なら何をやってもいいや的に、それぞれの監督がやりたい放題やった結果なのかもしれません。

チョイ役やカメオ出演でいろいろな俳優が見られるのも本作の特徴のひとつで、特に終盤のカジノでの乱闘シーンにはジャン・ポール・ベルモンド、ジョージ・ラフト、デヴィッド・マッカラムの顔が見られましたし、バグパイプの一員にはピーター・オトゥールもいました。そしてデボラ・カーの美しさには参りましたね。本作主演時は四十七歳くらいなんですが、あんな超美貌の四十七歳って存在するんでしょうか。現在の美容整形だらけの女優なんかじゃ簡単に負けてしまうほど強烈な美しさでした。

また時代を反映した衣裳デザインも当時のファッショントレンドを再確認できて嬉しいポイントでした。特に女性たちがみんな超ミニのワンピースを着てマシンガンをぶっ放すみたいなところは当時のポップカルチャーに大きな影響を与えたのではないでしょうか。現在的にはジェンダーやルッキズムの観点で問題とされるのでしょうけど、ミニの金髪美女をここまで勢ぞろいさせるとかえって圧巻という感じがして、見ていて気分が盛り上がったことは間違いありませんでした。

そんなハチャメチャな本作ではありますが、唯一統一感があって作品のトーンを安定させていたのがバート・バカラックの音楽でした。ハーブ・アルパートのタイトル曲は軽いノリが快感中枢を刺激するようで多幸感あふれるメロディと演奏が魅力的です。またうかつにも「The Look of Love」が本作の挿入歌だとは知らなかったのですが、セルジオ・メンデス&ブラジル66のイメージしか持っていなかったので、楽曲が出てきたときには本作の音楽面での価値の高さに驚いてしまいました。

そして何より本作のシンボルはアルファベットデザインを強調したオープニングクレジットでしょう。2時間10分の本編を見るよりあのオープニングクレジット3分だけ見ればそれで十分というくらいに、すばらしい出来栄えだと思います。またオーソン・ウェルズが絶賛したという本作の宣伝用に描かれた女性の背中イラスト。裸身をサイケデリックなデザインでくるんだあの女性イラストが、本作を本編以上のものに見せていることに賛成しない人はいないでしょう。そういう意味では、本作の価値はそれまでの映画にはなかったマーケティング面にあったのかもしれませんね。(A101522)

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