明日に向って撃て!(1969年)

西部の銀行強盗ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドの逃避行のお話です

こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ジョージ・ロイ・ヒル監督の『明日に向って撃て!』です。主人公のブッチ・キャシディとサンダンス・キッドの二人は実在した銀行強盗で、ウィリアム・ゴールドマンが書いた脚本をポール・ニューマンが買い取って映画化しました。当初は共同購入者のスティーヴ・マックイーンもキッド役で出演する予定でしたが都合が悪くなり、当時はそれほどビッグネームではなかったロバート・レッドフォードに白羽の矢が立ったんだとか。配役決定とともにはじめは「キッド」が先だったタイトルも変更されて「Butch Cassidy and the Sundance Kid」の順番になりました。

【ご覧になる前に】バート・バカラックの挿入歌「雨にぬれても」が大ヒット

西部のとある町で銀行の中を物色していたブッチは警戒が厳重なのに驚いて、カードゲームの相手から銃を抜けと凄まれていた相棒のキッドとともに「壁の穴」と呼ばれる強盗団に戻ります。現金を運ぶ列車から往復ともに強盗をしかけることを決めた一行は、早速列車を停止させて金庫の扉をダイナマイトで爆破して金を奪うことに成功しました。キッドの恋人で女教師のエッタの家で自転車に乗って休息をとったブッチとキッドは再び復路の列車を狙いますが、別の貨車から現れた数頭の馬に乗る追撃団によって追われる身となってしまい、いくつもの荒れ地や山を越えても追っ手から逃れることができず、絶壁の崖の上に追い詰められしまいます…。

ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドは19世紀末にアメリカ西部に実在した銀行強盗で、肉屋で働いていたためにブッチのあだ名がついたロバート・パーカーが結成した強盗団「ワイルドバンチ」にワイオミング州サンダンスで逮捕された経験のあるハリー・ロングボーが加わり、ブッチを首謀者として集団で強盗行為を繰り返していました。追撃にあって仲間を失いつつもブッチはキッドとキッドの恋人エッタとともに南米に逃げ、途中でエッタは離脱したもののアルゼンチン・チリ・ボリビアと逃避行を続けたそうです。そういう史実がありますので、本作は実在した二人組の半生をほとんどそのまま映画にしたものだといえるでしょう。

脚本を書いたウィリアム・ゴールドマンは1965年の『マスカレード』という作品で脚本家としてデビューし、ポール・ニューマン主演の『動く標的』などを書きましたが、オリジナル脚本はこの『明日に向って撃て!』が初めてでゴールドマンは見事にアカデミー賞脚本賞を受賞しています。本作以降はロバート・レッドフォード主演の『ホットロック』『大統領の陰謀』『遠すぎた橋』を次々に担当していまして1970年代を代表するシナリオライターのひとりになっていきました。

監督のジョージ・ロイ・ヒルはイェール大学で音楽を学んだエリートで、1950年代後半からTVシリーズの演出をつとめていました。1960年代に入って映画界に移り監督としてデビューすると1967年にはジュリー・アンドリュース主演の『モダン・ミリー』を発表していますが、やっぱりジョージ・ロイ・ヒルの名前を一般的なものにしたのはこの『明日に向って撃て!』でしょう。アカデミー賞監督賞にノミネートされたロイ・ヒルは、1973年にポール・ニューマンとレッドフォードが再び共演した『スティング』で見事にオスカーを獲得します。

そして本作の挿入歌「雨にぬれても」を大ヒットさせた作曲家がバート・バカラック。マレーネ・ディートリヒにその才能を見い出されたバカラックは1965年の『何かいいことないか子猫チャン』や1967年の『007カジノ・ロワイヤル』で注目されていましたが、本作でB・J・トーマスが歌った「雨にうたえば」でアカデミー賞主題歌賞を受賞して映画音楽での第一人者となりました。もちろんこの歌のほかにも本作ではさまざまなテーストの楽曲が登場していて、バカラックは西部劇映画のイメージを大きく変えることに貢献したのでした。

【ご覧になった後で】様々なスタイルが混在する自由奔放な演出の作品でした

いかがでしたか?すごく久しぶりに再見したのですが、これほど様々なスタイルが混在した映画だとは思いませんでした。始まりはやや静かな西部劇スタイルでスタートし、仲間割れを収めて列車強盗をするあたりではコメディタッチが強まります。ところがキャサリン・ロス演じるエッマが昔からの恋人だとわかった翌朝の「雨にぬれても」の場面はいきなりミュージックビデオのようなイメージモードに転調して、二回目の列車強盗が失敗するとそこからはシリアスでスリリングな追跡劇に様変わり。そして「I can’t Swim!」のセリフで笑いをとってからはニューヨーク経由で船出する旅の過程を写真のコラージュで見せていく紙芝居風になります。終盤のボリビアの場面では乾いた空気感を強調したけだるさを前面に出しつつ、ガンファイトの最後のラストショットはストップモーションになるというまさに自由奔放な映像術でした。ジョージ・ロイ・ヒルがやりたいようにやったラジカルな西部劇だったといえるでしょう。

そんな中で常に口喧嘩を繰り返しながら未来への展望を持ってコンビを組むポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの二人が非常に魅力的でしたね。再び共演する『スティング』ではトップビリングのポール・ニューマンをおさえてロバート・レッドフォードが実質的な主演の位置づけになっていましたが、本作ではしっかりとポール・ニューマンが四番バッターの座を確保していて、存在感自体でレッドフォードを圧倒していました。最後の銃撃戦で怪我をしても逃げることを全くあきらめていなくて、軍隊に囲まれていると気づかずに両手に拳銃を持って外に飛び出るというシチュエーションが、まさに「明日に向って」という希望を表現しているようでした。もちろん二人は蜂の巣にされて殺されるわけですが、悲惨さよりも明日への希望を感じさせるような終わり方になっていたのも、ポール・ニューマンによるブッチのキャラクター造形に依るところが大なのではないでしょうか。

ニューヨーク旅行を表現するセピア色の写真のコラージュシークエンスでは、実際の当時の写真にポール・ニューマンとレッドフォードとキャサリン・ロスをはめ込んで合成したものが使われていました。過去のフィルムに架空の登場人物の姿を合成する手法は1984年にウディ・アレン監督が撮った『カメレオンマン』で初めて使用されたと認識していたのですが、その15年前に本作で過去写真と現在を合成するテクニックが登場していたのには驚きました。過去と現在の融合はコンピュータ技術でどうにでもできるようになっていますけど、フィルム映画時代にこのような写真トリックに着目したアイディアは非常に冴えていたと思います。

本作でアカデミー賞撮影賞を獲得したコンラッド・L・ホールは、ドキュメンタリー映画出身ということもありリアリズムのある映像表現を得意としていたそうです。リチャード・ブルックス監督の『プロフェッショナル』でもキャメラをやっていて、埃っぽい乾いた画面はコンラッド・L・ホールにとってはお手の物だったようですね。本作の列車強盗の場面を撮影する際にはマルチキャメラで撮影するクルーが足りず、見学に来ていたキャサリン・ロスに撮影させたとかで監督のジョージ・ロイ・ヒルが怒り狂ったというエピソードがある一方で、本作の翌年にホールはキャサリン・ロスと結婚していますので当時から仲が良くてイチャイチャの延長線のお遊びだったのかもしれません。

蛇足ですが、1972年からNHKで放映されていた「西部二人組」というTVシリーズがありまして、このブッチとキッドのバリエーション的な内容の西部劇ドラマになっていました。TVシリーズでは強盗を働く二人組が恩赦を請求して一年間犯罪を犯さなければその決定を受けられるという設定で、悪事に巻き込まれそうになるのをなんとか切り抜けるという設定になっていました。このTVシリーズは大ヒットした「刑事コロンボ」と同じ時間枠の前の番組で忘れ去られた感じもあるのですが、『明日に向って撃て!』のコバンザメ的に思い出されるという点では得をしているのかもしれません。(V031523)

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