ジェーン・ラッセル&マリリン・モンロー主演のミュージカルコメディです
こんにちは。大船シネマ館主よのきちです。今日の映画は、ハワード・ホークス監督の『紳士は金髪がお好き』です。主演女優はジェーン・ラッセルとマリリン・モンローの二人ですが、マリリン・モンローは前作『ナイアガラ』で注目されたばかり。トップビリングはジェーン・ラッセルですし、出演料もジェーン・ラッセルが20万ドルだったのに対してマリリンは週給500ドルだったとか。しかしこのミュージカルコメディと次作の『百万長者と結婚する方法』の成功によってマリリン・モンローは一躍ハリウッドの一流スターとしての道を駆け上っていくことになるのでした。
【ご覧になる前に】歌手のマドンナにも影響を与えたマリリンの歌と踊り
ニューヨークでショーの舞台に立つドロシーとローレライは親友同士ですが、ローレライは金持ちの男性を結婚することを夢見ていて、富豪家の御曹司ガスに狙いをつけます。しかしガスの父親の許しが出ないので、結婚式を挙げる予定のパリへローレライはひと足先にクルーズ船で旅立つことになりました。ガスからローレライの付き添いを頼まれたドロシーは、船の中でローレライを隠し撮りしようとする男性を発見します。その男マローンはガスの父親が雇った私立探偵なのでしたが…。
本作の原作は第一次大戦後に発表された小説らしいのですが、一度サイレント期に映画化もされたようです。その後1949年にブロードウェイの舞台でミュージカルとして上演され、その映画化権を20世紀フォックス社が取得、本作が製作・公開されることになりました。舞台でも歌われたのがキャッチーなミュージカルソングの「Diamonds are a Girl’s Best Friend」。作曲はジュール・スタインで、MGMのミュージカル『錨を上げて』の「I Fall in Love Too Easily」やクリスマスソングの「Let it Snow!」など有名な曲をたくさん書いた人です。マリリン・モンローが歌って踊るこのミュージカルシーンは、歌手のマドンナにも影響を与えて、「マテリアルガール」のミュージックビデオはほとんど本作へのオマージュというかモノ真似になっています。
ハワード・ホークスはフランスのカイエ・デュ・シネマの映画評論家たちからヒッチコックと同様の賛辞を受けた映画監督。作品全体に自らの作家性を反映させようとする製作姿勢が評価されたということらしいのですが、映像作家としてのオリジナリティはヒッチコックと比べると、あまりというかほとんど見られないような気がします。最も有名な作品はたぶんジョン・ウェインが主演した『リオ・ブラボー』だと思いますが、一流の娯楽西部劇ではあるもののどこがゴダールやトリュフォーたちのお眼鏡にかなったのかいまひとつピンときません。本人も自らをストーリーを語るために職人的な仕事をしているだけと認識していたようですので、本作でもハワード・ホークスらしさを見つけるのは難しいのかもしれません。また、本作の振付師であるジャック・コールは、ハワード・ホークスがミュージカルシーンの現場にはいなかったと語っているようですから、ミュージカルは得意じゃないので歌と踊りは本職の振付師に任せておこうというスタンスだったらしいですね。
マリリン・モンローは本作の翌年、メジャーリーグベースボールのスーパースター、ジョー・ディマジオと結婚して、人生のピークを迎えることになります。女優としても『帰らざる河』『七年目の浮気』など今でもクラシック映画として見続けられる名作への出演が相次ぎますが、あの地下鉄の通気口から吹き上がる風でスカートが舞い上がる有名な場面のように、自分がセックスシンボルとしてだけ扱われることにストレスを溜めていくようになります。結果的にはドラッグが手放せなくなり、1962年に三十六歳の若さで不審な死を遂げることになるのですから、本作はその不幸な女優人生に踏み出すきっかけにつながる作品でもあったのでした。
【ご覧になった後で】マリリン・モンローだけに目が行ってしまう映画でした
ジェーン・ラッセルとマリリン・モンローはショーガールとしてコンビを組んでいるので、二人が揃って画面に登場する時間が長いのですが、どうしたってマリリン・モンローだけに目が行ってしまうんですよね。別にジェーン・ラッセルが嫌いなわけでもないのですが、とにかくマリリン・モンローが画面に登場すると、他のすべてのものが見えなくなってマリリンの姿だけを追いかけてしまうような見方になります。なので本作を見ると、一時的なマリリン中毒みたいな状態に陥ってしまい、早くに次のマリリン・モンローの登場シーンに変わらないかなという気分にさせられます。そんな気持ちになるのは、やっぱりマリリン・モンローのブロンドの見事さと不思議なキュートさにあるのではないでしょうか。金髪の女優はほかにも大勢いましたが、髪の色といい肌との溶け合い具合といい口紅との対照といい、こんなにも完璧なカラーコーディネートのブロンドはマリリン・モンローだけにしかありません。またこのローレライという役が単なるおバカな金の亡者ではなく、合理的に人生設計をしたうえで金持ちとの結婚が理想的であるという自分なりの意思のもとに行動する自立した女性であるところも、本作におけるマリリン・モンローの魅力を際立たせている要因だと思います。ジェーン・ラッセルには申し訳ないのですが、ほとんどジェーン・ラッセルのことは無視してしまうほど、マリリン・モンローだけを見続ける映画になっていました。
本作はミュージカルではありながら、ミュージカルシーンが連打されるわけでなく、どちらかといえばコメディ色の強い作品になっていて、ショットの撮り方もカットのつなぎ方もごく普通の演出がなされているように思えます。なのでハワード・ホークスの演出がどこにあるのかさっぱり見えてこないわけですが、ホークスが関わらなかったという「Diamonds are a Girl’s Best Friend」の場面は本作の中でミュージカルらしさが堪能できるシーンになっていました。赤と黒を基調とした美術セットもよいですが、ダンサーの配置の仕方が往年のバズビー・バークレー調を思わせるような幾何学的デザインに基づいていて、黒い衣裳の男女が彫像のようにセットにはりついているのも、非常にモダンに感じられました。その中でピンクの衣裳をまとったマリリン・モンローの歌と踊りは、特段うまいわけではありませんけれども、マリリン・モンローでなければこの場面のセンターは取れないよな、と思わせるほど彼女のためだけのミュージカルシーンに仕立てられているようでした。もちろんマドンナの「マテリアルガール」のビデオクリップなど比較にもならないデラックスさでしたね。
パリに到着したドロシーとローレライが早速街に出かけてショッピングを楽しむ場面が出てきますが、そこに映されるのがディオール、ゲラン、バレンジアガ。また「Diamonds are…」の歌詞で歌われるのはティファニー、カルティエ、ハリー・ウィンストン。この映画は今から70年も前に作られたものですが、ラグジュアリーブランドの格式が当時と現在でまったく変わっていないことにある種感銘を受けてしまいます。もちろん自分で買ったりするわけではありませんけど、ディオールやカルティエがそれぞれの歴史をもったブランドなんだなと認識をあらたにさせられるようでした。(A040422)
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